2012年4月13日金曜日

品質かそれともコストか

ある特殊紙メーカーのお客様が、「最近、品質を重視すべきかコストを重視すべきなのか分からず悩んでいる」という話をしておられました。お客様が製造しているのは、精密機器に使われる非常に繊細な製品であるため、その品質には細心の注意を払っておられますし、また高品質であるがゆえに、現在世界トップシェアを維持しておられます。しかし、最近では海外企業とのコスト競争が激しく、多少の品質は落としてでも、価格を下げてほしいという要求が強い。周りを見渡しても結局”安い”方が勝っているように見えると仰っていました。日本が世界に誇る製造業、特に電気業界は、完全に中国、台湾、韓国などの企業にシェアを奪われ、すでに過去の栄光となりつつあるように思えます。彼らは国のバックアップのもと、急速なグローバル展開を実現しています。長引く円高をはじめ、政治的な問題も多分にあるものの、私たち日本の製造業自体も意識を変えなければいけない部分もあるのかもしれません。

日本の製造業は、長年に渡りその品質を売りにしてきました。今でも品質は世界トップクラスであると思います。しかし、世界の市場では、多少品質を落としてでも低価格であることが優先されつつあります。私たち日本人も、日本の製造業の品質を自負しつつも、消費者の立場となると一転してコストを優先するケースも増えています。今求められているのは、品質よりも価格、もしくはイノベーション(革命)です。iPhone, iPadといった携帯端末は、明らかに私たちのライフスタイルに革命をもたらしました。品質ももちろん高いですが、革命をもたらしたことが、大ヒットにつながった要因だと思います。逆に革命をもたらすことができないのであれば、品質よりも価格が重視されるということでしょう。しかし、今まで品質最優先で培ってきた”職人気質”は、そう簡単に変えられるものではなく、そこに市場ニーズとのギャップが生じているのだと思います。価格を下げろと言われても、体にしみついた職人魂が品質を下げるなどということを許しません。最高品質のものを最低価格で提供できれば問題ないのですが、それがそう簡単ではないためにジレンマが生じます。

私は、この悩みは建設業を含む全ての製造業で起きていると思っています。まさに当社もこのジレンマに悩まされています。私が社員に当社の強みは何かと聞けば、必ず高品質、納期厳守、誠実などを挙げてきます。現場の仕上がりを他社施工と比較すれば一目瞭然、機能性、見た目ともに抜群で、随所に細かい配慮がされています。長年に渡って受け継がれてきた職人魂を感じます。しかし当社も今、熾烈なコスト競争の真っただ中にいます。その競争の勝つために、品質を落として施工するか?そんなことは職人魂が許しません。そこにジレンマがあるわけです。

このお客様と話をしたうえでの私の結論としては、まず品質を維持しながらコストを下げる努力を最大限に行うこと。そのうえで、品質重視であるかコスト重視であるかをお客様に選択してもらうということです。もちろん、低品質でいいですか?と聞けば、いいと言うわけがありません。ですから、コストを下げるための様々な仕様のオプションをお客様に提示し、どこまでの仕様ダウンは許容範囲であるかを見極めていく必要があると思っています。最近よく、松竹梅もしくはAプラン/Bプランで見積を出すようにと話しています。もちろん、複数の設計を考慮しなければいけないため、見積作成には時間がかかります。しかし、このひと手間をかけて、お客様に価格と仕様の双方を納得いただかなければ、受注もできませんし、win-winの結果にもなりません。自分たちの勝手な思い込みで最高仕様の設計をすることは、単なるエゴにもなりかねません。この点でも、お客様のニーズを読み取るということが必要になってくるのだと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿