2013年8月28日水曜日

ニーズの変化

先日、私の前職であるマイクロソフトのCEO スティーブ・バルマーが1年以内に退任するという発表がありました。スティーブ・バルマーは、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツの後任で2000年にCEOに就任しました。ふたりはハーバード大学で同じ寮で生活していたそうです。私がバルマーを生で見たのは、アメリカで毎年行われる全世界の社員を集めた集会でした。全社員といっても、それぞれの国の半分程度の社員が集まるのですが、それでも東京ドームの倍くらいのホールに何万人もの社員が集結します。集会が始まると、"I love this company !!" という叫び声とともにバルマーがステージに登場し、場内は皆スタンディングオベーション。バルマーはその観客席にいる社員のところに走って行き、20分くらいかけて何人もとハグを交わし始めました。私は場の雰囲気に圧倒され、物凄いエネルギーの会社だなと身震いしたのを覚えています。それから7年、彼は自らの力に限界を感じて退任を表明しました。

マイクロソフトは、パソコン時代を牽引した世界一のソフトウェアベンダーでしたが、クラウドコンピューティングやスマートフォンの急激な普及に対応が遅れ成長の勢いが衰えていました。いまやモバイル端末はiPhone/iPadか、グーグル社のAndroid端末が圧倒的なシェアを占めていて、それらの端末にマイクロソフト製品は搭載されていません。そのため、投資家やメディアからは厳しい批判がされていて、「バルマー氏は間違いなく今日の大手米上場企業の中で最悪のCEOだ」とフォーブス誌の記事になったくらいです。また、皮肉にも退任が発表されるとすぐに株価が7%上がりました。

バルマーの退任が表明されてから数日後、日本マクドナルドの原田社長の退任が発表されました。原田社長は2004年にアップル社長からマクドナルドの社長になり、“Macからマックへ”と話題になりました。100円マックによって来店数を劇的に増やしたり、作り置きをせずに60秒以内に商品を提供できる仕組みを作ったりし、業績を大きく伸ばしました。しかし、最近ではコンビニでも100円でコーヒーが飲めるようになり異業種のライバルとの競争になったり、景気が回復してきたら安さで勝負しにくくなったりと厳しい状況に追い込まれ苦戦していました。1ヶ月前くらいに会見で、「ボーナスが増えたらマックに行く回数を増やすのではなく、高級レストランに行くでしょう」などと話していたのを覚えています。それから間も無く退任を表明しました。

バルマーも原田社長もひとつの時代を築いてきた偉大な経営者ですが、環境の変化についていけずに退任することになりました。企業はお客様の求めるモノを提供し続ける必要がありますかが、市場やお客様が求めるモノの変化のスピードが非常に早くなりました。また、不況時には新たなアイディアによって思いもよらぬ強敵が現れることもあります。よく、“強い者が生き残るのではなく、変化に対応できる者が生き残る”と言われますが、まさにその通りだと思います。幸い、建設業の世界の変化はIT業界ほど早いようには思いませんが、確実にお客様のニーズは変化しています。このニーズの変化を正しく捉えて、サービスを提供しなければ決して生き残ることはできません。私自身、この点については試行錯誤を繰り返しており、皆さんに苦労や迷惑をかけることもありますが、やはりお客様のニーズと当社の可能性を探りながら、常に新しいチャレンジをしていくことが必要であり、それができなくなった時は、経営者として潔く身を引くタイミングなのだと改めて感じさせられました。

2013年8月22日木曜日

仕事は信頼関係の上に成り立っている

私の経営判断の最大の要素は「信頼関係」です。仕事は人と人、会社と会社の信頼関係で成り立っています。お客様はもちろん、協力会社、社員、仕事をする上で関係してくる全ての人や会社は信頼関係によって結びついているのです。長く、深く、付き合いを継続していくには、必ず信頼関係が必要です。この1年間、このことを改めて強く感じましたので、皆さんと少し共有したいと思います。

リーマンショック以降、当社は経営的に不安定な時期が続きました。しかし、社員の皆さんの頑張り、お客様や協力会社の支えによって、再び力強く前に進み始めることができました。ここには、当社の長い歴史の中で培ってきた多くの信頼関係があったからこそ、乗り越えられたということを決して忘れてはいけません。お客様が仕事を発注してくれ、協力会社が仕事を請けてくれて、社員が働いてくれて初めて会社は成り立ちます。商売が順調であれば、この関係は何もしなくても自動的に成り立ちます。しかし、少しでも陰りが見えた時、商売だけで成り立っている関係は一瞬で崩れ去ります。厳しい状況下であっても強固な繋がりをもてるのは、そこに信頼関係がある時だけなのです。

信頼関係を築くのには時間がかかります。その一方で、信頼を一瞬にして失うこともあります。私が考える信頼関係構築の絶対必要条件は、正直であること、そしてwin-winであることです。やると言ったことはやる。万が一できなかった場合には言い訳をせずにすぐに謝罪する。マイナスなことほどすぐ報告する。物事が順調に進んでいる時には分かりませんが、逆境に立たされた時にどのように振る舞うかで、人間性が見えるものです。こういう時こそ、正直な真っ直ぐな対応が必要なのです。

いくら正直な相手でも、全く価値のない相手と関係を築くことはできません。信頼とは、信じて頼ること。困った時に頼りになるから信頼できるのです。しかし、一方的な価値提供では関係は長続きしません。信頼に片想いはあり得ません。お互いに貸し借りを繰り返しながら、最終的にはwin-winであること、双方に信頼しあっていることが長期的な関係の構築に繋がるのでしょう。

当社が厳しい状況にあったこの一年間、仕事の発注をやめたり控えたりしたお客様は一社もありませんでした。それどころか、小さい案件でも便宜を図ってくれたり、取引条件を改善してくれたり、ことあるごとに温かい言葉をかけてくれたりしました。協力会社も誰も離れることなく仕事を続けてくれました。「何も心配してないよ」「何かあってもウチは旭と心中だ」この言葉には胸が熱くなりました。社員の皆さんもよくついてきてくれました。チャレンジングな数値目標にも最後まで諦めることなく、素晴らしい結果を出してくれました。会社が好きだ、なんとかしたい、そんな気持ちを全面に出して突き進んでくれました。当社のお客様、社員、協力会社は、信頼関係で結ばれている、これは当社の最大の価値なんだと再認識させられました。同時に、なんとかこの信頼に応えていきたいという思いを強く抱きました。これからも、お客様、協力会社、そして社員に信頼される会社、社員どうしが信頼し合える会社を目指していきたいと思います。