皆さんにも部下やチームメンバーに仕事の依頼をしたけれど、その仕事の出来が悪くて腹立たしく思ったり叱ったりした経験があると思います。そうなる理由は次のいずれかでしょう。「依頼者の成果イメージや意図が伝わっていない」「担当者の能力不足」「担当者がサボっている」私の経験からもそうなのですが、だいたい「伝わっていない」が50%、能力不足が40%、サボっているが10%だと思います。忙しくて時間がない状況下で出来の悪い成果物を見せられると、愕然として思わず感情的に叱ってしまったり、自分がやってしまった方が早いということで仕事を取り上げてしまったりしがちです。しかし、叱りとばすことが有効であるのは「サボっている」時であり、それ以外で叱ってばかりいると、部下は叱られるのを恐れて、自分で考えることを止め、上司の顔色を見ながら仕事をするようになってしまいます。また、仕事を取り上げればその時点で部下の手を離れますから反省をすることも思考することもなく、能力アップにはつながりません。結果的にその上司は部下を育てることができず、いつまでたっても自分ひとりで死にそうになりながら仕事をこなしていくことになります。
「依頼者の成果イメージや意図が伝わっていない」理由の多くは依頼者が仕事の内容や目的などを丁寧に伝えていないことにあります。自分自身で仕事をこなすことができる人は、自分の頭の中に成果イメージをもっていますし、その成果物を作り上げるためのプロセスも分かっています。しかし、初めてその仕事に取り組む部下にはそのイメージはありませんから、依頼者とは異なるイメージをえがいてしまう可能性が高く、このイメージのギャップが「仕事の出来が悪い」という結果を招きます。依頼者が忙しいと、言わなくても分かってるよね?とばかりに丁寧な説明を省きがちです。しかし、出来上がったものの出来が悪いと自分が徹夜をして作り直すことになり、更に忙しくなってしまうという、実にばかばかしい結果になります。仕事の指示が資料の作り方など、その仕事のやり方やプロセスの説明を重視しがちですが、最も重要なのはその仕事の目的や意図を伝えることであって、忙しければ忙しいほど、何のためにその資料を作成するのか、何のためにその仕事をするのかを伝えることを忘れてはいけません。人は、何のためにやっているのか分からない仕事を嫌いますから、部下にモチベーションをもって仕事に取り組んでもらうためにも、作業を依頼するのではなく、仕事を依頼するように心がけてください。
私は以前、自分が担当する製品の雑誌広告を作成する仕事をしたことがあります。広告代理店の方にその製品の特徴やウリを説明して、A4の紙1枚の広告に仕上げてもらうのですが、出来上がった広告のビジュアルやキャッチコピーを見て愕然としました。こちらとしては1時間を超えるブリーフィングを通じて製品について伝えきったつもりでいたのですが、アピールするポイントが全く伝わっていなかったのです。周囲にも同様の経験を通じて代理店の質の悪さを批判していましたが、私がその時に考えさせられたのは、何故彼らがそのように理解してしまったのかということでした。私の頭の中にはその製品の特徴や素晴らしさが詰まっていますし、常にその製品のことを考えて仕事をしています。しかし代理店の方は私の話によってその製品のことを初めて知り、予備知識がない真っ白な状態で話を聞いたわけですから、その人に対して私の頭の中にある知識と同様のレベルを前提に話をしても、正確に伝わるはずがありません。知識があるからといって色々な情報を一気に伝えるのではなく、前提となる予備知識を説明したうえで、本当に必要な情報のポイントを整理して伝える必要があったと反省した記憶があります。
自分の頭の中にあるイメージを伝えるのは非常に難しいことですし、相手の前提知識や理解力によって受け止め方が大きく異なるため、伝え方を変えていく必要があります。忙しい時ほど、この辺りのケアを怠りがちですが、最終的には多くの部下を育て、自分と同じレベルの仕事をこなしてもらうためには、初めに時間を割いて丁寧に説明することが必要です。それが結果的に自分を楽にしますし、仕事の幅や許容量を広げていくことにつながるのだと思います。